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せいぜいたのしくやろうぜ

書いてる人:二木

30代からはじめる映画鑑賞。感想記事は基本的にネタバレしているのでご了承ください。

『横道世之介』(2013/日本/沖田修一)

 主人公・横道世之介の一挙一動が面白すぎて、終始ゲラゲラ笑いながら鑑賞。一体、原作の小説ではどんな描写をされていて、そして監督・俳優はそれをどのように解釈し、この映画における「横道世之介」の強烈な個性を作り出したのだろうか。はっきりしなくてモヤモヤするなぁと多少のフラストレーションを抱えた矢先に突然何の迷いもなく何かを断言したり、世之介は次の一手で何をするのか全く読めない。でも、ただすっとんきょうなだけではなく、彼は基本的に気のいい奴で、みんなに優しい。

 その名の通り、横道に逸れるようにしてメインの人物も時間軸もすいすいと入れ替わっていく構成だった。普通だったらクライマックスで明かされるような衝撃の事実も、なぜか不意に中盤で明かされてしまう。それでも世之介が相変わらず面白いから、私たちは神妙な気分になりながらも引き続き彼のちょっとした振る舞いに笑わされてしまう。

 作中に出てくる人物の中でも、ふたりめの友人として登場した加藤との関係が素晴らしかった。加藤が実はゲイだと打ち明けるシーン、世之介はびっくりはするけど加藤のセクシャリティに関してはかなりあっさりしたリアクションをとり、そのせいで逆に加藤がびっくりする。夏の夜、散歩に出かけると言ってハッテン場に向かおうとする加藤のあとを、スイカを齧りながら着いてきちゃって、それでも普段どおりのテンションで、膝で割ったスイカを加藤に分けて一緒に食べる。後に大人になった加藤が、恋人に対して「あいつに会っただけで人生得した気分」と語ったが、確かにそれは加藤の人生の中でもとびきり大切な思い出になったのだろう。彼のその先の人生を、死ぬまでずっと照らし続ける細い光のような。

 物語の核となった世間知らずのお嬢様・祥子ちゃんとののんびりした恋もよかった。世之介と祥子ちゃんを通した世界はどこもかしこもみずみずしく、いつも小さな驚きと感動に溢れていた。世之介の地元でいい雰囲気になった瞬間に現れた逃げ惑う不法入国者たちのシーン、そのときはあまりにも突然だったのでめちゃくちゃ笑ってしまったのだけれど、祥子ちゃんにとっては自分の将来に影響を与える程の出来事だったらしい。ちょっとびっくりした。

 私もよく知らない80年代の風景は、ひたすら野暮ったくてダサくて恥ずかしい程だった。しかし段々とそれが、自分の記憶に最初からあった、懐かしくも愛おしい景色に見えてくるのがなんとも不思議な映画だった。